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こちらは私の友人の三野 誠子さんが私以前手がけていた犬の毛を紡いで糸にして、セーターやマフラーなどを編むお仕事の話を聞いて、作った童話です。
新美南吉童話賞佳作に入賞!あまりのうれしさに私のホームページに載せてもらえるようお願いしたものです。

もちろんお話はフィクション、私は犬を飼ったことがありません。こんな風に作家さんの頭の中でお話が紡がれていくんですねえ。
字だけでは寂しいのでへたっぴいな絵を私がつけました。。。
とっても素敵な作品です。お楽しみください。


「まるまるの贈り物」
                        三野 誠子

第17回新美南吉童話賞佳作入賞作品
*この作品の著作権は新美南吉記念館に帰属します*

 大好きな人にセーターを贈りたくて、ハタチのえりさんは、編み物教室に通い始めました。 初めは編み針を持つのにも苦労しましたが、じきに、一本の毛糸がいろんな形に変わるのが楽しくなりました。 コロンと巻かれた糸が、マフラーになったり、手袋になったり。ついには、念願のセーターにもなりました。
 残念なことに、ちょっとの勇気が足りなくて、えりさんはそれを大好きな人に渡せませんでした。 でも、ひとしきり涙をこぼした後も、えりさんは編み針を手放しませんでした。
 編み物が好きでたまらなくなったのです。
 えりさんは、習った作品を編むだけでは物足りなくなり、スケッチブックにセーターのデザインをしてみました。
 それを自分だけの毛糸で編もうと思い、北の町の羊牧場に通うことにしました。自分の力で、羊の毛を紡ごうと決めたのです。
 もこもこの羊に寄り添って、丁寧に毛を刈り、大きな桶で何度も洗います。脱水した毛は植物や薬で染めます。 それを糸車で一本の長い毛糸に紡ぎ上げられるようになる頃、えりさんには不思議な力が備わっていました。
 毛を手に取ると、羊の心がわかるのです。
 この毛の羊は、生まれた牧場に帰りたがっているとか。こっちの毛の羊は、結婚したがっているとか。 そっちの毛の羊は、生まれたての子羊が愛おしくてたまらないとか。
 その気持ちに合わせて、毛を染め上げます。故郷の広々とした牧草地を思わせるグリーン。 恋心そのままの淡いピンク。子羊の濡れた瞳に映る青空のようなコバルトブルー。
 えりさんは、羊の気持ちを映した毛糸で編んだオリジナルセーターを、友人達にプレゼントしました。 そのセーターを着ればふんわり幸せな気持ちになる、と評判になり、やがて、えりさんのもとには、 あちこちからセーターの注文が舞い込むようになりました。
 その頃えりさんは、街角で、やせ細った犬と出会いました。えりさんは頭をなでて、
「キミ、一匹ぼっちなの?」
と問いかけます。その犬のくすんだ白色の首には、赤い首輪がありました。
「迷子なの? 飼い主とはぐれちゃったのね」
 犬はキューンと声を絞り出すと、真っ黒い瞳でえりさんを見上げました。えりさんが歩き出すと、犬は黙ってついてきます。
 糸車と羊の毛とセーターでいっぱいのえりさんの部屋に、家族ができたのでした。
 えりさんは、元気に太って欲しいと願って、犬に「まるまる」と名付けました。
 まるまるは、仕事をするえりさんの指先をじっと見守り、食事をするえりさんの横で自分専用の皿に顔を突っ込み、 買い物に行くえりさんの足にじゃれつきました。
 まるまるは日に日に太っていきました。すがるようだった黒い目は人なつこく光り、 ブラシをかけられた白い毛並みもつやつやと輝きました。 えりさんは、ブラシに残った白い毛を、大切に袋に集めておきました。
 えりさんは、セーターを待つお客さんのために、羊の毛を洗って染め、紡ぎ、編み針を持ち続けました。 ふと顔を上げると、まるまるはじっとえりさんを見ています。えりさんが笑うと、まるまるはクフンと鼻を鳴らしました。 えりさんはまるまるの頭をくるくるとなで、また編み針を動かし始めます。 えりさんとまるまるの、幸せな時間でした。
 毎日のブラシかけによって、袋には、まるまるの毛が沢山たまっていきました。 ある日、その毛を手に取ってしみじみ眺めていると、あの不思議な力がわいてきました。 毛の持ち主、まるまるの心がえりさんに伝わるのです。
 袋の底の方、つまり出会った頃の毛は、「えりさんと会えて本当に幸せです」と語りかけてきました。 袋の上の方、つまり最近の毛は、「自分は歳なので、あまり長くは生きられないでしょう。 でも、えりさんのお陰で心おだやかでいられます」と語りかけてきました。
 えりさんは顔色を変えました。丸々として毛並みの美しいまるまるは、とても若く見えます。 老いているなんて考えたこともありませんでした。
 えりさんは、食事を消化の良い物に変えたり、外出を涼しい時間にしたりして、 まるまるを今まで以上にいたわるようにしました。
 けれども、秋の終わりの日のこと。透き通った日差しの中、えりさんのひざの上で、まるまるは静かに息を引き取りました。 えりさんは、つややかなまるまるの背中をなで続けました。まるまるは、まるで楽しい夢を見て眠っているようでした。 そしてまるまるの毛はえりさんに、「今まで本当にありがとう。いつか、ぼくからえりさんに、贈り物をしますから」 と語りかけていました。
 しばらくして、えりさんは、たまっていたまるまるの真っ白な毛を、丁寧に紡ぎました。 出来上がった毛糸を、えりさんは、染めずに真っ白なまま編むことに決めました。 毛糸をわずかばかりも残さずに編むと、大きめのセーターが仕上がりました。 えりさんはセーターをそっと壁に掛けました。これで、いつでもまるまるがそばにいるような気がします。
 ある日えりさんは、注文のセーターを届けに、隣りの町に出掛けました。 初めての道を歩いていると、あちこちの電柱や掲示板に、色あせたポスターが貼られているのが目に飛び込んできました。 「犬を探しています」という言葉と、赤い首輪、白い犬の写真。えりさんはポスターの前に立ちつくしました。 それは、少しスマートなまるまるの姿でした。 えりさんは、ポスターの下に書かれた連絡先を、震える手で手帳に書き留めました。
 翌日、再びえりさんは、隣町に行きました。古い喫茶店の椅子に座るえりさんのひざには、真っ白なセーターがありました。 まるまるの匂いが染みついた、いえ、まるまるそのもののセーターを、元の飼い主に渡すことにしたのです。 もちろん手放したいわけがありません。 でも、まるまるを待ち続けたまま会えなかった飼い主には、まるまるのセーターを返さなくてはならないと思ったのでした。
 昨夜、ポスターの連絡先の人に電話をしました。もうすぐその人がやって来るはずです。
 カラン、と扉を鳴らして、男の人が店に入ってきました。うつむいているえりさんの向かいの席に座ります。 えりさんは顔を上げずに、セーターを差し出しました。その人はそれを手に取るなり、かすれた声を出しました。
「ああ。シロの匂いだ」
 えりさんは、濡れた瞳を上げました。
「あ」
その人は、昔セーターをプレゼントしたくて出来なかった、大好きだったあの人でした。
「シロがここいる。シロが帰ってきてくれた」
そう言ってその人は、真っ白なセーターに袖を通しました。その人の身体にぴったりです。
 そして、まるまるそのもののセーターを着たその人とえりさんは、それからずっと一緒に暮らしたのです。


こちらからもう一編、三野誠子さんの童話が読めます
 ↓ サンケイリビング新聞社賞の「角砂糖一個」という作品です。
http://www.sugar.or.jp/compe/compe5/sankei.shtml

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